代替効果のページで使った不等式の説明をします。補償需要の考え方をこつこつ使った展開をしていくので注意深く見ていきましょう。今回示す定理はこれです。
自己代替効果は非正
\(\frac{\partial h_i}{\partial p_i}\leq 0\)

この定理の意味を見ておきましょう。
まずヒックスの補償需要\(h(p,u)\)とは何かを再確認します。
価格体系\(p\)で効用水準\(u\)をみたすもっとも安い消費計画をヒックスの補償需要といい、\(h=h(p,u)\)で表されます。ここで効用水準\(u\)をいじらないことにしてしまえば、\(h\)は価格体系\(p\)だけの関数になります。
ここでは財\(i\)の需要量にのみ注目しており、これを同じ財の価格で微分しています。ただし、他の財の価格が一切変わらないという条件のもとで、です(偏微分)。
つまり、定理を日本語で言い換えると「一つの財に注目する。ほかの財の価格が変わらずにこの財だけが値上がりした場合を考える。このとき、効用を下げずに消費するためにはこの財の消費量は変わらないか、少なくなる。」となります。
直感的には明らかだと思います。が、私たち人間が社会について考える時こういった直感で思ったものの多くは間違えやすく、何が正しく、何が間違いなのかをコツコツ証明していくのが経済学の重要な役割の一つなんですね。この「当たり前」を証明して経済学を本当の意味で勉強してみましょう!

では、価格体系が\(p^0\)から\(p^1\)に変わったときの変化を考えます。ただし、価格が変わったのは財\(i\)だけにしておきます。
財\(i\)への支出は価格\(p_i\)と消費量\(h_i\)の積\(p_ih_i\)と表せます。
この支出高について定義から
\(p^0h(p^0)\leq p^0h(p^1)\)
が成り立つのは大丈夫でしょうか。価格体系\(p^0\)での最小支出は定義から\(p^0h(p^0)\)になります。もし、他の価格体系\(p^1\)による補償需要を消費してしまえば、それはもっともすぐれた消費かそれより高くつきます。
同じ理由で
\(p^1h(p^0)\geq p^1h(p^1)\)
も成り立ちます。

「小さい方から大きいものをひく」と「大きいものから小さいものをひいたもの」よりは小さくなります。この二つの不等式の両辺を引いて
\(p^0h(p^0)-p^1h(p^0)\leq p^0h(p^1)-p^1h(p^1)\)
まとめて
\((p^0-p^1)h(p^0)\leq (p^0-p^1)h(p^1)\)
移項して
\((p^0-p^1)(h(p^0)-h(p^1))\leq 0\)

まず、価格体系や消費計画はベクトルでしたから上の内積を展開します。
\((p^0_1-p^1_1)(h_1(p^0)-h_1(p^1))+(p^0_2-p^1_2)(h_2(p^0)-h_2(p^1))+\cdots +(p^0_n-p^1_n)(h_n(p^0)-h_n(p^1))\leq 0\)
ずいぶんと面倒な式になってしまいました。

ここで、価格が変わったのは財\(i\)のみという前提を活用します。
\(i\)以外の財では\(p^0-p^1=0\)ですから\(i\)以外の項を全部消去できます。
\((p^0_i-p^1_i)(h_i(p^0)-h_i(p^1))\leq 0\)
つまり
\(\Delta p_i\Delta h_i\leq 0\)
です。
ここで両辺を\((\Delta p)^2\)で割りましょう。0でない数の二乗は正なので不等号は変わりません。
\(\frac{\Delta h_i}{\Delta p_i}\leq 0\)
\(\Delta h_i \to 0\)をとれば
\(\frac{\partial h_i}{\partial p_i}\leq 0\)
となって自己代替効果は非正を示すことができました。

理解できているかどうか試すにははこのページを一回隠して自分でやってみることが非常に有効です。
まったく同じ内容ですが、このページを離れ、例題をやってみてください。

【補足】なお、代替効果は補償需要について述べるものであり、マーシャル需要関数については特に議論していません。ですから、これ自体は「価格が下がれば財の需要量はあがる」「価格が上がると財の需要量はさがる」つまり「需要関数は右下がり」というよくいわれる性質を説明することはできません。実は需要関数が右あがりになることは理論上は可能で、ギッフェン財といわれます。

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